キャッチフレーズを巡る知的財産権法上の問題1(著作権・不競法)

キャッチフレーズは、広告宣伝に用いられる謳い文句です。
良いキャッチフレーズは、その特徴的なフレーズにより、消費者の注目を集め、商品やサービスの売上に貢献することがあります。そのため、ライバル会社が、消費者の注目を集める手段として効果的な他社のキャッチフレーズを拝借してしまうこともあり得ます。
このような場合、知的財産権上の問題は発生しうるのでしょうか。

キャッチフレーズについては、著作権、商標権、不正競争防止法が問題となり得ます。

著作権について

著作権については、被告商品である英会話教材のキャッチフレーズは、原告商品である英会話教材「スピードラーニング」のキャッチフレーズの著作権侵害であると原告が主張し、差止めおよび損害賠償を求めて訴えた事件があります(東京地裁平成27年3月20日判決、知財高裁平成27年11月10日判決スピードラーニング事件)。

原告・被告それぞれのキャッチフレーズは、以下のとおりです。
<原告のキャッチフレーズ>
①音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる
②ある日突然,英語が口から飛び出した!
③ある日突然,英語が口から飛び出した
<被告のキャッチフレーズ>
①音楽を聞くように英語を流して聞くだけ 英語がどんどん好きになる
②音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達 英語がどんどん好きになる
③ある日突然,英語が口から飛び出した!
④ある日,突然,口から英語が飛び出す!

裁判所は、原審および控訴審とも、著作権侵害の主張を認めませんでした。
原審は、原告のキャッチフレーズは、いずれも平凡かつありふれた表現であるとの理由により、著作物性を否定しています。
知財高裁は、同じく著作物性を否定していますが、次のような理由を付け加えています。
「アイデアや事実を保護する必要性がないことからすると、他の表現の選択肢が残されているからといって、常に創作性が肯定されるべきではない。すなわち、キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては、個性の有無を問題にするとしても、他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が表れる余地が小さい場合には,創作性が否定される場合があるというべきである。」

この知財高裁の理由は、よく考えられていると思いました。
「表現の選択肢が残されているからといって、常に創作性が肯定されるべきでない」という箇所は、表現の選択肢があること、イコール創作性があるということにはならない、といっているわけで、表現の幅があるからといって、直ちに創作性が認められるわけではなく、表現の幅があるなかで個性を発揮する必要があるという原則を述べているのではないかと思います。多少、表現の幅があったとしても、個性が表れる余地が小さく、個性が表れていると言いがたいものは、やはり創作性を否定されると考えられます。あるアイデアを表現するために選択肢が多くないのであれば、そこでの選択は個性の表れとはいえないので、著作物性が否定されるのは当然といえます。

不正競争防止法違反について

前掲スピードラーニング事件では、原告は、不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為)の主張もしましたが、原審および控訴審とも不正競争防止法違反も認めませんでした。

知財高裁は、不正競争防止法違反について、次のように判断しています。
「もっとも当該キャッチフレーズが、当該商品や役務の構造、用途や効果に関する以外のものであったり、一般的にキャッチフレーズとして使用されないような語句が使用されたりして、当該キャッチフレーズの需要者に対する訴求力が高い場合や、広告や宣伝で長期間にわたって繰り返し使用されるなどして需要者に当該キャッチフレーズが広く浸透した場合等には、当該キャッチフレーズの文言と、当該商品や役務との結び付きが強くなり、当該商品や製造・販売し、又は当該役務を担当する特定の主体と関連付けられ、特定の主体の営業を表示するものと認識され、自他識別機能又は出所表示機能を有するに至る場合があるというべきである」。

つまり、キャッチフレーズだからといって、頭から営業表示性を否定するわけではなく、そのキャッチフレーズが、特定の営業主体に関連付けされたり、営業を表示するものと認識されれば、不正競争防止法2条1項1号違反も認められる余地はあるということです。

参考:コメダ珈琲店事件

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