私的録音録画補償金(してきろくおんろくがほしょうきんせいど)③-この制度の敗因

私的録音録画補償金と同等の精度は、欧州でも論争となりましたが、現在は落ち着き、フランスでは、正常に機能しています
フランスの考え方を参照にしながら、日本の制度の敗因を分析したいと思います。

制度の違い

まず、日本では、この制度は、「私的録音録画補償金」と位置づけられています。したがって、録音と録画が補償金の対象になります。
これに対して、フランスでは、「私的複製に対する報酬」であって、私的な録音・録画に限定されてはいません。 つまり、文書の著作物の著作者や出版者にも報酬請求権が認められています。たとえば、フロッピーディスクも徴収の対象になります。 なお、フランスでは、文書の著作物の著作者や出版者には、デジタル記録媒体に行われる複製だけが、私的複製に対する報酬の対象となっています。 ただ、文書の著作物に対するアナログで行われる複製については、複写複製に対する報酬でカバーされています。 したがって、両者を合わせて考えると、複写複製権料の支払いという形であれ、私的複製に対する報酬という形であれ、私的複製のほぼ全域をカバーしていることになります。

フランスの制度は、その点に一貫性が感じられるのですが、我が国では、「私的録音録画」を補償金の対象とした点において、思想的背景の欠落があるように感じます。

徴収方法の法的性質の違い

フランスでも日本でも、報酬ないし補償金は、消費者が最終的に負担しなければならないのですが、徴収の方法としては、上乗せ・徴収方式により媒体等の製造者や輸入者が支払いをする方法がとられています。ただし、日本では、上乗せ・徴収方式は協力義務の一方法であって、法律でいう協力義務から一義的に導かれるものではないと判断されました。

これに対し、フランスでは法律的な義務として具体的に定められています(フランス知的財産法典311-4条1項)。
フランスでは、かつて、媒体ごとの報酬を定めた委員会の決定を無効とする判決がだされ、支払義務者である製造者等が支払いを拒むというケースがありました。しかし、裁判所は、暫定的な金額を供託させるなどして、支払義務の免除は認めませんでした。 その理由として、所有権の保障に遡って判断した裁判例があります。

所有権は事前の保障なく奪われることはないという原則は、日本でも憲法上の保障があり、フランスでも民法典に規定があります。フランスではその精神がこういう場面で生かされているのに対して、日本では著作権については所有権の保障という考えが表れてきません。フランスでは、所有権の保障は、フランス革命によって勝ち取られたもので、著作権は、所有権のなかでも神聖な権利と扱われていました。日本では、所有権の保障はあるものの、支配者層と非支配者層との間の闘争から勝ち取られた権利とは言えないので、具体的場面で生かされていないように思います。「私的複製に対する報酬」という考えではなく、「私的録音録画補償金」という考えに至った背景には、権利者・使用者双方に所有権を使うという発想が後退していたからではないかと思います。

消費者への配慮

加えて、フランスでは、私的報酬に対する報酬について消費者に対する情報開示や私的複製に対する報酬の払い戻しを受けられる制度が設けられています。これらが実際にどれだけ機能しているかは分かりませんが、制度の正当性を理論的に担保するため、実際に機能しているかどうかにかかわらず、存在意義が認められると考えられます。

また、報酬の額の決定のために、使用に関する実態調査も行われ、予算も定められています。私的複製に対する報酬や私的録音録画補償金制度は、一種のフィクションを前提とした制度ではないかと思います。それをどれだけ現実に近づけることができるかをフランスでは考慮しています。

国家による後見的関与

また、フランスでは、私的複製に対する報酬制度を実施するにあたり、国家による後見的関与が散見されます。
フランスでは、報酬の徴収が義務的である場合には、集中管理団体の設立について認可制が採用され、私的複製に対する報酬を徴収および分配する集中管理団体も、認可された集中管理団体となっています。
そのほか、フランスでは、「私的複製に対する報酬委員会」という機関があり、報酬等については、委員会の決定により定められますし、委員の構成についても不公平がないよう、法律や政令により委員の出身団体とその割合が定められています。また、委員会は、文化担当大臣等の諮問をうけることになります。市場の失敗のために集中管理が必要となる領域においては、適宜、国家の後見的関与が行われた方が、うまく機能するように感じます。

日本で私的録画補償金制度を機能させるためには、結局は、協力義務の内容が一義的なものとなるように、法律で定めればいいだけな気がしますが、そんな簡単にはいかないのですね。最近は、ストリーミングで音楽や映像を鑑賞する方法も台頭してきました。これから私的録音録画自体を行うことも減少し、私的録音録画補償金も過渡的な制度になるのかもしれません。ただし、現時点において、媒体への録音録画が一定数存在している以上、著作者に対する還元がちゃんと行われるのであれば、それが公平であるように思います。

アーカイブ

フランスにおける私的複製に対する報酬制度の動向

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