並行輸入業者が行いがちな著作権侵害②

並行輸入業者が、正規代理店のカタログなどを流用してしまい、問題になることがあります。

並行輸入業者が行いがちな著作権侵害 参照

ここでご紹介する裁判例は、商品の説明書における説明文と挿絵の流用が問題となった裁判例です(東京地裁平成28年7月27日判決)。

事案の概要

本件で問題となった商品は、カナダ法人であるモントリー社が製造販売している「スイマーバ」という商品名の乳幼児用浮き輪(本件商品)です。原告は、モントリー社の日本における総代理店、被告は、本件商品を並行輸入し販売していた業者です。
被告は、本件商品に関する原告説明書を参照に、被告説明書を作成していました。そのため、被告説明書に記載された被告説明文と被告挿絵が、原告の著作権(複製権および譲渡権)を侵害するかという点と、原告の著作者人格権(同一性保持権と氏名表示権)を侵害するかという点が、問題となりました。

争点

具体的な論点は、原告説明文の創作性と、原告挿絵の創作性です。

判決の要旨

– 説明文について

判決は、「本件商品の使用方法や使用上の注意事項等については、それ自体はアイデアであって表現ではなく、これを具体的に表現したものが一般の製品取扱説明書に普通に見られる表現方法・表現形式を採っている場合には創作性を認め難いといわざるを得ない。本件商品の取扱説明書において、幼児のどのような行動に着目した注意事項を記載しておくか、どのような文章で注意喚起を行うかといった点についても、選択肢の幅は限られているとみられる」との前提で、かつ、原告説明文は、モントリー社の英語の説明文の翻訳であったことから、二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないという最高裁判決を踏まえて、「表現内容等について原告説明文において新たに追加・変更された部分でなければ、上記『原告説明文において新たに付与された創作的部分』には当たらないというべきである」との前提で、原告説明文の創作性を否定し、被告の著作権侵害を否定しました。

– 挿絵について

判決は、説明文については著作権侵害を全面的に否定しましたが、挿絵については、一部について著作権侵害を肯定しています。判決では、「本件商品の使用方法等を示す挿絵という性質上、表現の選択の幅はある程度限られる面があるものの、上記のような絵全体としての描き方には少なからぬ選択肢が存すると考えられる」との理由で、挿絵については、狭い範囲ながら著作権法上の保護を受ける余地があると判断し、被告挿絵が原告挿絵の複製であることを肯定しています。ただし、挿絵の著作者は、原告ではなかったため、著作者人格権侵害は否定されています。

実務上の注意点

並行輸入でなくても、説明書のパクりは、よくあるケースです。並行輸入業者は、正規代理店が商品と共に使用している説明文などをそのまま流用してしまいがちですが、思わぬ落とし穴となってしまいます。逆に、正規代理店からすれば、並行輸入そのものに文句はいえなくても、著作権侵害でクレームをつける余地は残されていることになります。