並行輸入業者が行いがちな著作権侵害

並行輸入に対する考え方は国によって異なり、我が国では、原則として、並行輸入業者が、正規品ブランドや正規輸入販売代理店から、並行輸入についてのクレームをつけられる法的根拠はないと考えられています。

ところで、並行輸入業者としては、並行輸入品を取り扱うことができるのだから、正規品ブランドが出しているカタログなどもそのまま使用できると考えがちです。しかし、このような流用には、著作権侵害の可能性があるので、注意が必要です。

参考になる裁判例として、コーラーカタログ事件(東京地裁平成28年2月16日判決)を紹介します。

事案の概要

原告は、キッチンやバスルームの備品を販売する米国コーラー社の日本正規代理店、被告は、米国コーラー社の販売代理店です。被告は、米国コーラー社の正規輸入代理店のようですが、日本国内に原告が正規代理店として存在するにもかかわらず、被告が正規輸入代理店となっている理由は定かではありません。被告は、並行輸入業者ではありませんが、正規代理店である原告と競合関係にあるといえます。被告は、被告カタログを作成するにあたって、原告カタログを参照していました。
原告は、原告カタログの各表現(編集物、文章、図表)が原告の著作物であり、被告カタログはこれらを複製し、原告の著作権を侵害したと主張し、損害賠償を請求しました。

争点

本件では、①原告カタログの各表現(編集物、文章、図表)の著作物性と、②損害額が問題となりました。

判決要旨

本判決は、編集物のうち、製品の分類、選択および配列を創作的表現として著作物性を認めましたが、製品の価格、サイズ、材質等と製品写真を基本情報とした部分は、個性の表現とはいえないと判断し、著作物性を否定しました。また、文章表現については著作物性を肯定し、図表の一部にも著作物性を認めたのですが、図表のうち、サイズ、容量、品番、価格などを表形式にした部分については著作物性を否定しました。つまり、製品の価格、サイズ等の製品情報をカタログに掲載することは一般的であり、その点には特に創作性は認められないと判断したのです。その上で、著作物と認定した部分について、被告の複製権侵害、譲渡権侵害を認め、さらに、原告の名称を表示しなかった点で氏名表示権侵害、改変について同一性保持権侵害を認めました。

損害については、使用料相当額によるべきとしながら、原告カタログも被告カタログも無償で配布されるものなので、使用料算定基準が明確でないとして、著作権法114条の5を適用し、算式は不明ですが、著作財産権侵害に対する損害を120万円と認定しました。さらに、人格権侵害に対する損害を30万円、弁護士費用相当額の損害を30万円と認定しました。

実務上の注意点

並行輸入業者は、正規品ブランドが出しているカタログなどを流用してしまいがちです。本件で問題となった著作物は、編集物・文章・図表ですが、そのほかに、写真の転載についても著作権侵害の問題が生じますので、注意が必要となります。他方、上記の裁判例では、流用しても侵害にならない箇所があることも認めています。判断に迷ったら、予め弁護士に相談しておくことが無難といえます。