比較広告はどこまで許されるか

比較広告で他人の商標を用いた場合であっても、他人の商標を商標を自他商品の識別機能を果たす態様で使用したわけではないため、商標として使用したことにならず、商標権侵害に該当しません。

商標権侵害になりそうでならない場合④-比較広告

ただ、比較された側からすればあまりいい気がしないということで、商標以外の法律問題が持ち出されることがあります。たとえば、比較広告は、不当景品類及び不当表示防止法(「景表法」)違反の問題が生じる場合があります。また、不正競争防止法2条1項14号(原産地等誤認惹起行為)・15号(虚偽事実の告知流布行為)も問題となることがあります。

これらを争点として裁判になったにもかかわらず、裁判所によって問題がないと判断された事件として、コジマ対ヤマダ電機の比較広告事件(東京高裁平成16年10月19日判決・原審前橋地裁平成16年5月7日判決)があります。

事案の概要

コジマは、「ヤマダさんより安くします!!」(本件表示A)、「当店はヤマダさんよりお安くします」(本件表示B)、「当店はヤマダさんよりお安くしてます」(本件表示C)の本件各表示を用いて、宣伝を行っていました。
比較対象とされたヤマダ電機は、本件各表示について、①景表法4条2号に違反する不当表示に該当する、②その実施が不正競争防止法2条1項13号(現行14号)・14号(現行15号)に該当する不正競争行為にあたり、また、営業妨害および名誉毀損になるとして不法行為に基づく損害賠償請求等を求めました。原判決は、ヤマダ電機の請求をいずれも棄却したので、ヤマダ電機が控訴しました。

東京高裁判決の概要①景表法違反(有利誤認)について

景表法5条は、不当な表示を禁止しています。景表法5条1号は、一般消費者に、実際の商品・サービスや他の事業者の商品・サービスよりも、著しく優良であると示す表示(優良誤認となる表示)、2号は、著しく有利であると示す表示(有利誤認となる表示)を規制の対象としています。本件では、有利誤認に該当するかどうかが問題となりましたが、東京高裁は、これを否定しました。

つまり、コジマの販売価格が、ヤマダ電機の販売価格よりも、顧客にとって著しく有利と消費者に誤認される場合には、有利誤認に該当しうるのですが、裁判所は、全ての商品の価格についてコジマの価格がヤマダ電機の価格より安いと判断する消費者はそれほど多くないから、本件各表示に接した消費者は、一般的に、コジマの方が常に有利と認識するとは限らないと判断して、有利誤認には該当しないと判断しました。

東京高裁判決の概要②不正競争防止法違反について

不正競争防止法2条1項14号は、商品・サービスなどに、商品・サービスの質・内容などについて誤認させるような表示をする等の行為を禁止し、15号は、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知しまたは流布する行為を禁止しています。

東京高裁は、14号については、原審の判断をそのまま引用しています。原審は、本件各表示は、同一の商品について、被告の販売価格を原告のそれよりも安くするという内容の表示であり、商品の内容について誤認させるような表示でない等と判断して、14号該当性を否定しました。

さらに、東京高裁は、15号について、本件各表示は、一般消費者に対し、ヤマダ電機の価格設定が不当に高いという印象を与えるものとはいえず、社会的評価を低下させるものでも、営業上の信用を毀損するものでもないし、虚偽の事実を告知するものともいえないと判断して、15号該当性を否定しました。

実務上の注意

比較広告であれば、内容等に誤認を生じさせたり、虚偽の事実を告知したりするものでないかぎり、特に問題はないといってよさそうです。
また、原則として景表法違反にも該当しませんが、そのためには、消費者庁が公表している価格表示ガイドラインや業界団体の公正競争規約を遵守する必要があります。
実際に、不正競争防止法違反とされたケースもあるので、注意が必要です。