再版契約と独占禁止法

出版社は、書籍を書店に卸す際、日販やトーハンなどの取次会社を通すのが一般的です。
出版社と取次との間には、再販売価格維持契約書が交わされます。
これが、いわゆる再版契約と呼ばれる契約です。

再版契約は、出版社が取次会社に小売店の管理を委託し、定価による書籍の販売を維持させることを目的として締結される契約です。

再版契約は、独占禁止法上、問題はないのか?

独禁法19条は、「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と定めています。
そして、自己の供給する商品を購入する相手方に、正当な理由がないのに、商品の供給者が、その商品の取引先である事業者に対して転売する価格を指示し、これを遵守させる行為である再販売価格維持行為は、一般に、不公正な取引方法として、原則として違法となります(2条9項4号)。

ただし、独禁法23条4項は、「著作物を発行する事業者又はその発行する物を販売する事業者が、その物の販売の相手方たる事業者とその物の再販売価格を決定し、これを維持するためにする正当な行為」については、禁止される再販売価格維持行為の例外に該当することを定めています。

ところで、このように定めていても、すべての著作物の再販売価格維持行為の適用除外になるわけではありません。平成4年4月15 日公表文「レコード盤,音楽用テープ及び音楽用CDの再販適用除外の取扱いに関する公正取引委員会の見解」によれば、「独占禁止法第23 条第4項により再販売価格維持行為が独占禁止法の適用除外とされる「著作物」は、昭和28年の再販制度導入時に定価販売慣行があった書籍、雑誌、新聞及びレコード盤の4品目並びにレコード盤と機能・効用が同一である音楽用テープ及び音楽用CDの2品目の計6品目に限定」されます。
これにより、書籍の再版契約は、不公正な取引方法に該当しないことになります。

現在、書籍の再販売価格維持行為は、正当と認められてはいるものの、公取委は、著作物の再販売価格維持行為の適用除外を広げない方向性を採用していると考えられます。
また、出版業界に対し、書籍の再版契約について、柔軟な運用を求めています。

海外における書籍の再販売価格維持行為の動向

書籍の再販売価格維持制度に関する国際情勢をみてみると、自由価格制を採用する国と固定価格制を採用する国に分かれ、拮抗しています。

前者は、イギリス、アイルランド、米国、カナダ、南アフリカなど英米法の国が中心ですが、デンマーク、ポーランド、スウェーデンなど北欧の国、そのほかベルギー、スイス、イスラエルなども自由価格制を採用しています。

後者は、フランス、ドイツ、オーストリー、ギリシャ、オランダ、スペイン、イタリア、ポルトガルなどの大陸法系の国が中心で、欧州以外でも、アルゼンチン、メキシコ、韓国は固定価格制です。単一市場を目指す欧州でも、制度がバラバラということになります。

こうしてみていくと、固定価格制を採用する国と自由価格制を採用する国とで、文化格差が存在しないことは、明らかなので、創作の多様性の維持や文化の保護といった従来から言われている書籍の再販売価格維持制度を採用する理由は、根拠に乏しいように考えられます。