模型を作ることの知的財産法上の問題点

実物を精巧に模した模型やミニチュアというのは、意外と世の中に出回っていて、多くのファンを獲得しています。たとえば、ミニカーや鉄道模型など、模型やミニチュアはいろいろなジャンルに亘っています。実物の製造業者と模型の製造販売業者との間で、模型の製造・販売に対するライセンス契約を締結することも、よく行われます。

このようなライセンス契約を締結することなく、模型の製造販売をした場合、法律上問題になりうるのでしょうか。模型の場合、実物そっくりに作らないと価値が認められないのが普通です。したがって、模型本体や模型のパッケージに、実物のブランド名が表示されたりすることがあります。そこで、商標法・不正競争防止法違反が問題となり得ます。

不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為)違反が問題となった事件として、ベレッタ事件(原審東京地裁平成12年6月29日判決、控訴審東京高裁平成15年10月29日判決)があります。

事案の概要

本件は、「ベレッタ」を製造するイタリア法人と、そのイタリア法人から銃の携帯を玩具の銃に使用することについて独占的使用権を得ていた会社が、「ベレッタ」の模型を製造・販売していた被告の行為は、不正競争防止法2条1項1号(周知表示誤認混同行為)違反に該当すると主張し、差止めおよび損害賠償を請求した事件です。

争点

本件で主に問題となったのは、被告の模型に被告の商品形態を用い、また、そのパッケージ等に被告の商品形態を表示することが、2条1項1号にいう「商品等表示を使用」したことになるかどうかです。

結論

原審の東京地裁および控訴審の東京高裁とも、被告である模型製造販売業者勝訴の判断をしています。

判旨

本件は、数件の同種事件が係属し、控訴審判決もありますが、以下は、東京地方裁判所平成12年6月29日判決(平成12年ネ3811号、3812号、3874号)の判旨より、引用しています。

まず、裁判所は、2条1項1号について、次のように解釈しています。2条1項1号の「不正競争行為というためには、単に他人の周知の商品等表示と同一又は類似の表示を商品に付しているというだけでは足りず、それが商品の出所を表示し、自他商品を識別する機能を果たす態様で用いられていることを要するというべきである。けだし、そのような態様で用いられていない表示によっては、周知商品等表示の出所表示機能、自他商品識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を害することにはならないからである。このことは、同法11条1項1号において、商品の普通名称又は同一若しくは類似の商品について慣用されている商品等表示を普通に用いられる方法で使用する行為については、同法2条1項1号所定の不正競争行為として同法の規定を適用することが除外されていることからも、明らかというべきである。」(判決中の11条1項1号は、現行法19条1項1号)

その上で、裁判所は、次の様に判断しました。「本件においては、前記認定の事実関係によれば、被告各商品は、我が国においては、市場において流通することがなく、所持することも一般に禁じられている実銃であるM92Fを対象に、その外観を忠実に再現したモデルガンであり、実銃の備える本質的機能である殺傷能力を有するものではなく、実銃とは別個の市場において、あくまで実銃とは区別された模造品として取引されているものであって、その取引者・需要者は、原告実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形状・表示を有する多数のモデルガンの中から、その本体やパッケージ等に付された当該モデルガンの製造者を示す表示等によって各商品を識別し、そのモデルガンとしての性能や品質について評価した上で、これを選択し、購入しているものと認められる。したがって、原告実銃において原告商品形態が原告ベレッタの商品であることを示す表示として使用されており、また、被告各商品が原告商品形態と同一の商品形態を有しているとしても、被告商品形態は、出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。

また、前記認定の事実関係によれば、被告各商品のパッケージ等に被告各商品の外観を示す写真や図面、その商品名を示す表示が付されていても、それは、当該モデルガンがどの実銃を対象とし、どのような外観を有するのかという当該モデルガンの内容を説明するために使用されているにすぎず、右パッケージ等に表示された被告商品形態は、いずれも出所表示機能、自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないというべきである。」

コメント

裁判所は、模型が実物の商品形態をまねたものであったとしても、模型としての商品の形態は出所表示機能や自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではなく、また、パッケージ等にその写真などが付されていたとしても、実物が何かという内容を示すために使用されているにすぎず、出所表示機能や自他商品識別機能を有する態様で使用されているものではないと判断しています。
このように、不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」に該当するためには、問題となった表示が自他商品を識別する機能を果たす態様で使用されることが必要であり、商標における商標的使用と同様の考えが成り立ちます。

2017@Tomoko INABA