商標権侵害になりそうでならない場合①-ドーナツ枕事件

流通している商品やサービスには、商標が付されるのが一般的です。世の中、商標権を取得されたマークで溢れていますので、うっかりそれらを使用してしまうと、商標権者から商標権侵害と警告されかねません。しかし、商標権侵害として警告を受け、一見、侵害になりそうにみえても、法律上は、商標権侵害にならない場合があります。
そのような事件の例として、ドーナツ枕事件(東京地裁平成22年10月21日判決、知財高裁平成23年3月28日判決)があります。

事案の概要

原告(西川産業)は、「ドーナツ」という標章を、「クッション,座布団,まくら,マットレス」等を指定商品として登録商標している商標権者です。
被告(テンピュール)は、「ドーナツ」と「クッション」の片仮名文字を上下2段に配置してなる標章(「被告標章1」)を包装箱に付してクッション商品を販売し、また、フェブサイトとカタログに「ドーナツクッション」の片仮名文字からなる標章(「被告標章2」)を表記して使用していました(以下、「被告標章1」と「被告標章2」を併せて「被告各標章」)。

原告は、被告の被告各標章の使用が商標権侵害に該当し、かつ、原告の商品等表示として周知または著名な「ドーナツ枕」の表示を使用する点で不正競争防止法違反(2条1項1号の周知表示誤認混同行為、2号の著名表示使用行為)に該当すると主張して、被告商品の販売等の差止め等と損害賠償を請求しました。

判旨

原審の東京地裁は、被告の使用について商標権侵害にも不正競争防止法違反にも該当しないと判断し、知財高裁も次のように判断して、原審の判決を支持しています。

「⓵『ドーナツ』の語には,穴のあいた円形,輪形の形をした物の観念が含まれており、『ドーナツ盤』、『ドーナツ椅子』、『ドーナツスピン』、『ドーナツ星雲』等の『ドーナツ』を冠した複合語の用例が存在していることを総合すると、『ドーナツ』を冠した複合語からは、『ドーナツ』とそれに続く語との間の『型』又は『形』の文字が付加されていない場合であったとしても、『中央部分に穴のあいた円形,輪形の形状の物あるいはこのような円形、輪形に似た形状の物』の観念が想起されること、

⓶被告商品の包装箱、被告ウエブサイト又は被告カタログには、その出所識別表示としては、各テンピュール商標が別に存在しており、被告標章1(ドーナツ/クッション)又は2(ドーナツクッション)については、被告商品の本体の形状を示すイメージ図及び包装箱の説明文等と相俟って、被告商品がその中央部分を取り外すと、中央部分に穴のあいた輪形に似た形状となるクッションであることを説明するために用いられたものであると需要者において認識し、商品の出所を想起するものではないといえることなどに鑑みれば、被告各標章は、被告商品の出所識別表示として使用されているものではないと認められるから、その使用が『登録商標に類似する商標の使用』(商標法37条1号)には該当せず、被告の商品であることを示す『商品等表示』(不競法2条1項1号,2号)にも当たらないというべきである。」

解説

被告は、被告商品のクッションを販売したり、宣伝したりするのに、原告が商標権を有する「ドーナツ」の言葉を用いていました。ですが、「ドーナツ」という言葉は、ドーナツ状の形状を表す用語として一般的に使用されています。

被告は、被告のクッション商品について、中央部分を取り外すと中央に穴のあいた輪の形に似た形状になるという商品の説明をするために、「ドーナツ」という言葉を用いたのであり、そのクッションが自分の商品であるということを示すために「ドーナツ」という言葉を用いたわけではありません。

このような態様で他人が商標権を取得している言葉を使ったとしても、それは商標として使用したことに該たりませんので、商標権侵害にはならないのです。同様に、商品等表示として使用されていることにもなりませんので、不正競争防止法違反にもなりません。

実務上の注意

商標権侵害と警告されたとしても、実際に、商標権を侵害しているのかどうか、慎重に検討する必要があります。商標権者から警告された場合には、弁護士に相談すべきです。法律に関する知識もないままですと、警告に驚いて、本来、支払う必要のない損害賠償を支払うことにもなりかねません。
反対に、商標を出願する場合にも、強いブランド力をもつ標章になりうるかどうかを考えて出願する必要があります。

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