ヤクルト立体商標事件

事案の概要

平成8年商標法改正により、商標の定義に「立体的形状」が加えられ、立体的形状も商標登録ができるようになりました。
そこで、乳酸菌飲料「ヤクルト」を製造販売する会社は、「ヤクルト」の包装容器(「本件容器」)の立体的形状のみからなる商標(「本願商標」)について商標登録出願をしました。
しかし、特許庁から拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判でも請求不成立の審決を受けたため、審決取消訴訟を提起しました。

主要な争点

本件容器は、「ヤクルト」などの商品名等の文字商標とともに使用されています。
そのため、立体的形状のみで、商標法3条2項の「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるもの」に該当し、自他商品識別力を獲得したとして、商標登録が認められるかどうかが問題となりました。

特許庁の判断

審決は、需要者が自他商品の識別標識と捉えるのは、「Yakult」「ヤクルト」の文字部分(平面標章部分)であって、立体的形状は商品の容器の形状を表すものと認識するにとどまるとの理由で、立体的形状自体は自他商品識別標識として捉えられることはないと判断しました。

知財高裁(平成22年11月16日判決)の判断

知財高裁は、本願商標のような立体的形状を有する商標(立体商標)につき自他商品識別力(商標法3条2項)が肯定されるためのには、以下の2点が必要と判断しました。

➀使用された立体的形状がその形状自体および使用された商品の分野において出願商標の立体的形状および指定商品とでいずれも共通であるほか、➁出願人による相当長期間にわたる使用の結果、使用された立体的形状が同種の商品の形状から区別し得る程度に周知となり、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至っていること。

そして、立体的形状を有する使用商品にその出所である企業等の名称や文字商標等が付されていたとしても、そのことのみで上記立体的形状について同法3条2項の適用を否定すべきではなく、上記文字商標等を捨象して残された立体的形状に注目して、独自の自他商品識別力を獲得するに至っているかどうかを判断すべきとの基準を示しました。

本件について、裁判所は、本願商標は、自他商品識別力(商標法3条2項)を獲得したと判断し、商標登録出願を認めるべきとして、特許庁の審決を取り消しました。
裁判所は、本件容器の立体的形状に、自他商品識別力を認定するにあたって、次のような事項を考慮しています。

(1)本件容器を使用した原告商品と本願商標との同一性
(2)本件容器の使用期間
(3)販売額や市場占有率
(4)宣伝広告費
(5)宣伝広告における本件容器の扱い
(6)アンケート調査結果
(7)類似する立体的形状に対する需要者の認識はどうか

上記の状況を考慮した上で、裁判所は、本願商標については、審決がなされた平成22年4月12日の時点で、本件容器の立体的形状は、需要者によって原告商品と他社商品との間で識別する指標として認識されていたと判断しました。
その上で、本件容器に文字が記載されていることについては、アンケート調査によれば、本件容器の立体的形状のみを提示された回答者のほとんどが「ヤクルト」を想起すると回答していること、容器に記載された商品名が明らかに異なるにもかかわらず、本件容器の立体的形状と酷似する商品を「ヤクルトのそっくりさん」と認識している需要者が存在していること等から、本件容器の立体的形状は、それ自体独立して自他商品識別力を獲得していると判断しました。

ところで、本件と同様に、包装容器の立体的形状のみからなる商標登録出願が争われたコカコーラ事件(知財高裁平成20年5月29日判決)は、立体商標について拒絶査定不服審判請求の不成立審決を取り消した初めての判決でしたが、ここでは、「類似容器の形状が市場に流通していないこと」が登録を認める理由の1つになっていました。

他方、本件では、本件容器と類似する立体的形状の容器を使用した他社商品が市場に多数出回っていると認定されています。
裁判所は、「市場において先行商品と類似品若しくは模倣品との区別が認識されている限り、先行商品の立体的形状自体の自他商品識別力は類似品や模倣品の存在によって失われることはない」と判断しました。
ただし、類似品や類似標章が多く出回り、正規品や正規標章が希釈化される前に対策をとるべきです。